澱粉分解酵素の一種であるイソアミラーゼは澱粉分子の分岐構造のみを特異的に認識し切断する。イソアミラーゼの精密な分子認識機構を分子構造に基づいて解明するためにX線結晶構造解析に取り組んだ。
高エネルギー物理学研究所の放射光実験施設フォトンファクトリーのシンクロトロン放射光等を利用したX線回折実験を行った。得られたX線回折データから、多重同型置換法により、イソアミラーゼ結晶中の電子密度分布を計算した。電子密度分布に基づいて、分子設計支援システムによりイソアミラーゼの分子モデルを構築し、X線回折データを利用したシミュレーティッドアニーリング法で構造の精密化を行った。
イソアミラーゼ分子は、3つのドメインからなり、中央のドメインに大きな溝が存在し、溝の底部に8本鎖からなる平行βバレル構造が存在することが明らかになった。酵素活性及び基質結合部位は、このβバレルの上端にあると推定される。

金属やセラミックスの材料開発研究では、メカニカルアロイング法、ゾル・ゲル法、イオンプレーティング法など新しい製造技術を利用して新しい材料が数多く見出されている。これらの材料の多くは、室温大気圧下では最安定状態でない準安定物質であり、微結晶や薄膜として得られる。無機材料部では、準安定物質を作製する研究に加えて、これら準安定物質の構造を正確に評価する研究を進めている。ここでは、一例としてリートベルト法による構造解析結果について紹介する。
一般的な粉末X線回折法による構造評価では原子の大まかな位置までしか知ることができないのに対して、リートベルト法ではX線回折パターンの強度をモデル計算と比較することにより、各原子の詳しい位置や熱振動の大きさなど格段に多くの情報を得ることができる。
欠損型ペロブスカイト酸化物であるチタン酸ランタン(La2/3TiO3)は、通常のセラミックス製造法では合成できないが、チタンの一部をアルミニウムで置換することによって合成することができた。そこでリートベルト法による構造解析を行った結果、この化合物は図のようにc軸方向に2倍の周期を持った超格子構造であり、空孔をほとんど含まないLa(1)面と多量に含むLa(2)面が秩序だって配列していることや各イオンの詳細な変位の様子が明らかになった。また、酸素イオンの熱振動がきわめて大きいことがわかり、新しい酸化物イオン伝導体である可能性が示された。

PL法に伴い製品の安全性には、消費者及び生産者から大きく注目が注がれている。靴の安全性に関する大きな要因は、底材の滑り易さである。滑りは靴底材単独によって発生する現象ではなく、靴底と床材との相互作用によって発生するものである。現在までに様々な測定方法によって靴底と床材との摩擦係数の測定がなされてきたが、測定方法によって摩擦係数に大きな違いがあるなど確立された方法がなく、そのため得られたデータにも統一性がなかった。そこで、今回新しく開発された滑り試験機を用いて、各種靴底材と4種類の床材(コンクリート、Pタイル、カーペット、ステンレス)との摩擦係数を、乾燥及び水で濡れた状態で測定した。
図にコンクリートと標準ゴムとの滑り試験の結果を、動摩擦係数の速度による変化で示す。人の歩行速度(5km/h)における動摩擦係数は、乾燥状態と濡れた状態とでそれぞれ0.60と0.35であり、濡れた面が明らかに滑りやすくなっていることがわかる。このように水が存在することによって靴の滑り易さは大きく変化した。Pタイルやステンレスの場合では、濡れると乾燥状態に比べて動摩擦係数が10分の1以下に大きく減少することも判明した。
今回使用した装置は、1cm×2cmの試料片2枚を使用し、50cm×50cmの平らな床面があれば測定できるものであり、今後この試験機を用いて靴底と床材の摩擦係数を測定し基礎データーを収集して安全な靴づくりに役立てたい。

金属基複合材料(MMC)は、現在自動車及び舶用エンジンのピストン等に使用されているが、開発されてからの時間が短く、また改良が加えられつつある現時点において強度特性について十分な検討がなされていない。今後、種々の母材と強化材の組合せにより新たなMMCが開発される可能性もあるが、現在使用されているものについて強度特性を綿密に把握しておくことは、開発済みの材料の普及及び新材料の開発のためにも重要である。
本研究では、MMCとしてSiCウィスカ強化アルミニウム合金SiCw/2024Al-T6及びSiCw/7075Al-T6を用いて室温及び573Kにおいて、ひずみ速度0.1%/secの引張試験及び試験片の破面観察を行った。併せて、母材のアルミニウム合金2024Al-T4及び 7075Al-T6についても同様の試験を行い、MMCと母材との引張特性の差異について比較考察した結果、次の結論を得た。
室温及び573Kの両温度条件下において、引張強さ、0.2%耐力及びヤング率は、アルミニウム合金よりMMCの方が大きく、破断伸び及び絞りは、MMCよりアルミニウム合金の方が大きい値となった。また、アルミニウム合金及びMMCともに、引張強さ、0.2%耐力及びヤング率は、573Kより室温の方が大きく、破断伸び及び絞りについては、逆に室温より573Kの方が大きい値となった。さらにアルミニウム合金は、室温及び573Kともにカップ・アンド・コーン型の破壊を呈し、MMCは室温では脆性的破壊であるが、573Kでは延性が増加することが認められた。
以上より、MMCは、アルミニウム合金の軽量性を生かしつつ、機械製品の構成要素である強度部材に適用可能であることが明らかとなり、特に高温で延性が増すことから高温強度部材として利用可能であることが判明した。
事故や戦争等により手足に損傷を受け、不自由な日常生活を強いられている人は多い。このうち義足については、移動に不可欠であるためマイコン制御を用いた精巧なものが開発されているが、義手については、外観上の観点から装着する装飾用の物が多く、本来の手としての機能を付与するための義手は未だ開発されていない。指先の開閉を電動アクチュエータにより行う義手はいくつか開発された例があるが、いずれも開閉の動作を単純にアクチュエータのON/OFFにより行っているため、単純に掴む・離すといった動作しか行えず、本来のヒトの指が持っているような柔らかな動きはできなかった。
そこで、本研究では、障害者に残存している上腕部の筋肉を意識的に動かすことにより発生する筋電信号に応じて、柔らかな動きで義手の指の開閉動作を行う筋電電動義手の開発を行う。また、指先の形状について検討し、最適な形状を求める。さらに、掴もうとしているものの固さを使用者が認識できるようにするため、指に作用する反力を検出し、この反力を使用者が知覚し、把握力を調整できるような体感機能代行システムを開発する。本研究テーマは、中小企業事業団の委託研究である中小企業創造基盤技術研究事業に採択されたもので、平成8年度より3年間、神戸大学、旭光電機(株)と工業技術センターとの共同研究で実施している。
この中で、工業技術センターは、義手の指先形状の最適化を担当している。従来の筋電義手の指先形状は、日常の動作に対して最適化されたものではなかった。そこで、まず健常者の指の動作を測定・解析して義手の指先としてはどのような形状が適しているかを求めた後、実際にその形状の指先を有する筋電義手を試作してその機能の評価を行う。現在は、指の動作を解析するための実験を行っている段階である。
従来、バッグのデザインをする場合は、消費者がそこに入れて運ぶであろう化粧品や書類などを想定してデザインする方法がメインであった。しかし、バッグも衣類や、靴と同様身につけるものである以上、収納性やファッション性だけでなく身体へのフィット感もデザインする時の重要な要因として考えるのが妥当である。特に、通勤・通学時など個体距離の極端に短い空間でバッグを使用する場合は自己の身体だけでなく、他者の身体のことも考慮して設計する必要がある。そこで、身体にフィットする鞄のデザインを行うための方法を開発し、その方法に基づきバッグのモデル製作を行った。
人間の身体にあった鞄をデザインするために3次元デジタイザを利用した。3次元デジタイザのプローブによって人体モデル(今回はマネキンで代用)上に頭の中にある架空の形状デザインを描く。描いた3次元曲線に基づいて、スプライン曲線を描き、さらにサーフェスをはる。以上の3次元CGモデリングを行ったあと、フラットニング機能を用い、3次元CGモデリングのパターン展開を行う。これによって得られたパターン形状を紙に写し、それらの部材を張り合わせれば、原寸大の鞄モデル形状が得られる。

近年の建築工法や生活様式の変化、国内景気の低迷あるいは円高基調下での輸出の減少やアジア諸国等からの輸入品の増加等、三木・小野市の金物集積地を取り卷く環境は激しい状況になってきている。一方、大半の小規模企業においては、従業者が高齢化する中で、設備意欲も低下し、新素材の利用、新技術の開発等による取り組みが困難な状況になってきている。
そこで、本集積の活性化を図るためには、集積機能を有効に発揮し、これまで蓄積してきた伝統的な金属加工技術を活かしつつ、新素材及び新加工技術を導入し、それらを活用した新製品開発・新販路開拓に取り組み、新分野への展開を図る必要がある。そのため、従来の金属素材や新素材に適応する新加工技術として、それぞれの目的に適合した装飾性の向上や高品質・高機能化を図り、創造性のある新製品開発を達成するための高度熱処理技術について研究した。
特に、従来からの炭素鋼、ステンレス鋼やチタン、チタン合金等の新素材を活用し、真空熱処理による局部焼入れ法、めっきと熱処理とを組み合わせためっき熱拡散法、さらにチタンのプラズマ浸炭法等、これらの特殊熱処理技術について調査・研究を実施した。その結果、これら技術の金物製品への適応によって、軽量で作業性に富み、耐摩耗性、耐疲労性、装飾性等の優れた特性を付加できることが明らかになった。
本年度では、この結果をもとに、個性的商品の開発に向けた試作商品として、以下の4点を製作した。
@ プラズマ浸炭処理したチタン合金製ゴルフヘッド
A 炭素鋼にスズ−ニッケル合金めっき処理したスパナ
B 真空熱処理による部分焼入れしたステンレス鋼製医療用のみ
C プラズマ浸炭による部分浸炭焼入れしたギヤシャフト
ステンレス系材料を使用した刃物・工具類の製作において、それらの作業工程の簡素化と省エネルギーを目的に真空熱処理においても部分焼入れが可能となる方法を検討した結果、大別して次の3タイプを併せ持つ材料を得ることができた。
@ オーステナイト化後適正冷却により焼入硬化した部分〔刃先となる硬くて耐摩耗性のあるマルテンサイト組織(最高硬さ:59HRC)〕
A オーステナイト化するが冷却速度不足により不完全焼入された部分〔胴部となるやや硬くて靭性のある遷移組織〕
B オーステナイト化されないまま冷却され、硬化しなかった部分〔柄部となる軟らかくて加工が可能なフェライト組織(素 材と同じ13HRC)〕
この物理的に傾斜機能を持ったマルテンサイト系ステンレス鋼を利用することによって、より広範囲な応用が期待できる。

ジエチルアミノエチルクロライド塩酸塩(DEAE・Cl-HCl)と水酸化ナトリウム(NaOH)を用い、セルロース繊維(特に綿布)への親水化処理を施したDEAE化綿布を調製して、その処理綿布の化学的、力学的性能について検討し、改質材料の開発を行った。また、繊維に保水された水には、氷結〜融解する自由水と、氷結〜融解の相転移を示さず、官能基と強固に水素結合で束縛された不凍水と不凍水より弱い結合により高分子に束縛され自由水とは異なる温度で凍結可能な中間水の存在がある。本研究では、保水された水分子の収着挙動について調べるため、熱分析(DSC)測定により不凍水と中間水の総和である結合水量を測定した。それぞれ得られた結果を下記に示す。
@ 処理綿布の保水率と置換度(DS)の関係について検討した結果、保水率はDSの増加とともに上昇し、一定のDS以上になると飽和する傾向を示した。
A 同じDSを示す処理綿布でも、NaOH溶液の濃度が異なると結晶構造の変化により保水率が大きく変化することがわかった。
B 綿布のマーセル化が起こるNaOH溶液の濃度以下で、DEAE・Cl-HCl溶液による修飾化を行うことにより、セルロース繊維の結晶構造を変化 させることなく、DEAE化を綿布に施し、原布に比べ55〜86%の保水率の増加が認められた。処理綿布の風合いや力学的強度(引張及び引裂強度)も原布とほとんど変わらず、綿繊維本来の風合いや外観の形状が損なわれずに、 高保水率の改質材料が得られた。
C NaOH単独で処理した処理布は、NaOH溶液の濃度の増加とともに結合水量は増加し、一方、DEAE化処理した綿布は、DSの増加により結合水量は増加するが、中間水は減少する傾向が認められた。
可溶化コラーゲン(コラーゲン線維の構成単位)へのメタクリル酸エステル及びアクリル酸等によるグラフト共重合から超微粒子コラーゲンが懸濁液として得られる。この超微粒子コラーゲンは皮革への浸透性や皮革中での固着性が高く、皮革の風合いを改善させる作用があり新しいタイプの皮革再鞣剤としての応用が期待できる。
そこで、種々のビニルモノマーを用いることによりグラフト鎖の極性や柔軟性を変えた再鞣剤を合成し、それらの再鞣効果に及ぼす影響を調べた。
重合には、メタクリル酸エステル、メタクリル酸2−ヒドロキシルアルキル、アクリル酸2−ヒドロキシルアルキル、スチレン、アクリルニトリル、酢酸ビニル等を用いた。
クロム鞣剤によって前鞣された革について3系列(1.グラフト鎖の極性がほぼ同じでその柔軟性の異なる系列 2.極性と柔軟性が同時に変動する系列 3.比較的剛直で極性の変動する系列)、16試料の鞣剤による再鞣試験を行った。その結果、
@ 親水性、疎水性モノマーによるグラフト共重合懸濁体はいずれも革への浸透・拡散は良好であった。
A 合成した鞣剤は、程度の差はあるが、革の腰・弾力性、ふくらみ、銀面の状態を改善する作用があると認められた。
B アクリロニトリル、酢酸ビニル系鞣剤は再鞣革の表面を濃色化する作用が認められた。
以上、可溶化コラーゲンを基材とするグラフト共重合体はモノマー種の選択、それらの組合せにより多様な性質を付与させることが可能であり、新しいタイプの再鞣剤の開発が期待できる。